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| 第25回 |
ひょうひょうとしていて、でもチャーミングで |
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| ほえる犬は噛まない |
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まず初めにお断りしておきます。この映画、犬好きの人にはお薦めしません。ストーリーの中心となる事件のことを、大抵の紹介記事では「小犬連続失踪事件」と称していると思いますが、正しくは「小犬連続殺害事件」。そして、韓国、犬、とくればもう賢明な皆さんにはお分かりですね。はい、「あれ」の描写もあります。犬好きの方は、あまりに猟奇的な描写の連続に卒倒するかもしれません。で、実はかくいう私も大の犬好き。だからこの映画、それだけで80点マイナス・・・なのだが、それでも十二分に面白い!ポン・ジュノ監督「ほえる犬は噛まない」。
舞台は、中流家庭の人々が住む閑静なマンション。そこに暮らすユンジュ(イ・ソンジェ)は、出産間近の妻に生活を依存しているうだつのあがらない大学の非常勤講師。教授への出世争いにおいて同輩に先を越され、イライラしているユンジュは、マンション内から聞こえてくる犬の鳴き声に一層イライラをつのらせる。一方、マンションの管理事務所に勤めるヒョンナム(ペ・ドゥナ)は、若いのにあまりぱっとしない女の子。親友のチャンミと暇をつぶしたり、上司に怒られながら仕事をしたりの日々。そんなある日、愛犬がいなくなって悲しんでいる少女の姿を見て、持ち前の正義感に火がついて・・・。
平凡で退屈な日々を過ごす若い女の子が、ひょんなことから事件に巻き込まれて、という設定は、「秘密の花園」の矢口史靖を思い起こさせる。時折現れる非日常な描写は昔の森田芳光みたいだ。なんてことを思いながら観ていたのだが、観終わった時に残ったのは、「いーや、誰にも似ていない」という感想だった。
まずこの映画、ジャンル分けがしにくい。旬の男優と女優を使いながらロマンスの要素はないし、ちょっとした事件が起こるもサスペンス映画でもない。社会的な要素もあるが、社会派映画とは言いがたい。随所に見られる作家性からは、以前ご紹介した「無感動の系譜」に連なっているようにも思えるが、この映画の場合は、もう少し「感情」がある。脚本もきっちりできているし、エンターテイメント性も強い。しいて言えば、「ブラック・コメディ」などと呼ばれる映画に属するのかもしれないが、その表現もどうもしっくりこない感じがする。
この映画のユニークさは、本国・韓国であまり評判にならなかったことからもうかがえる。確かに、犬を○○る行為、ホームレス差別、物乞い、キマリを守らない、当たり前のように横行する賄賂、などなど、この映画には、韓国の負の部分がたくさん登場する。それがご当人たちには面白くないのだろう。だが、それ以上に、こういった「自己批判」的な表現そのものが、今までの韓国映画になかった視点なのだとも言える。あの「テーハミング!」の大合唱を見ても分かるように、なんせ自己肯定、自己陶酔の好きなお国柄だから。韓国人がこの映画を観て、面白がっていいのか憤慨すべきなのか戸惑っている光景が思い浮んでくるじゃありませんか。
考えてみれば、最初は「何と残酷な」と引いてしまった「お犬殺し」の描写にしても、犬を人間に置き換えてみれば、これ以上に猟奇的な殺人を描いた映画はごまんとある。それらの映画は無批判に楽しんでいるのに、この映画が「犬殺し」を描いているからって引いてしまう自分は何なんだ、とちょっと反省すらしてしまった。
この映画のユニークさのもう一つの秘密は、全ての描写が、予想を少しだけ「ずらして」いることにある。おばあさんの遺言、ホームレスの行動、妻が犬を買った理由・・・そのすべてが、予想を少しだけ裏切る。これ、中々できることじゃない。
そして、それらの「少しずつズレた人々」の中にあって、ヒロインのヒョンナムだけは、しごくまっとうで、ストレートに行動する。それが、私たちの心を打つのだ。ヒョンナムは私たちだけでなく、親友の心も打っているようで、普段は馬鹿にしたような態度しか見せないチャンミも、実はヒョンナムを深く愛していることがよく分かる。寝てしまったヒョンナムのでこにかかった前髪を、チャンミがさりげなく払ってあげるシーンのなんとチャーミングなこと!
そう、今分かった。この映画の最大の魅力は、何よりも「チャーミング」なことにあるのだ。ヒョンナムが「いざ!」という時にはパーカーのフードを被るという行為。善の黄色と悪の赤の対比。もっと大事なことがあるのに「靴が片方脱げてしまう」ことを気にする間抜けさ。どれも、抜群のセンスでいて、そのセンスを「どうだ!」と誇示するのではなく、実にさりげなく描かれている。そのさりげなさがまことにチャーミングなのだ。
日常を描きながら非日常まで突き抜けた映画を撮る。日韓問わずあらゆる若手監督が目的としている(ように見える)高みに、実にひょうひょうと到達してしまった感のあるポン・ジュノ。それが決してフロックでないことは、長編二作目である「殺人の思い出」が韓国で今年一番のヒットを記録していることからも分かる。
それにしても次から次へと新しい才能が現れる韓国映画。マジで底なし。
渋谷ユーロスペースにて10月18日(土)よりロードショー!

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コラムニスト 丸山 正樹
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1961年東京生まれ。早稲田大学演劇科在学中に、シナリオ講座にてシナリオを学ぶ。 1996年、Vシネマ「湘南爆走族/帰ってきた伝説の5人」でシナリオライターデビュー。Vシネマ「痴漢白書9」ほか、テレビシナリオに「恋、した。」、舞台脚本として「アナザールーム」(椿組)など。企業・官庁の広報ビデオのシナリオも多数てがける。

連絡先:maruyama@asianpalam.com
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| ▼『ほえる犬は噛まない』データ |
2000 韓国/原題:フランダースの犬 |
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---- CAST
| コ・ユンジュ |
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イ・ソンジェ |
| パク・ヒョンナム |
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ペ・ドゥナ |
| ユンジュの妻 |
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キム・ホジョン |
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---- STAFF
| 監督 |
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ポン・ジュノ |
| 製作 |
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チャ・スンジェ |
| 脚本 |
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ポン・ジュノ/ソン・ジホ/ソン・テウン |
| 音楽 |
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チョ・ソンウ |
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| 製作 |
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ウノ・フィルム |
| 製作支援 |
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サヌン・キャピタル/シネマ・サービス |
| 配給 |
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シネマ・サービス |
| 日本配給 |
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(株)ファイヤークラッカー |
| 宣伝 |
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グアパ・グアポ |
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| 日本公式ホームページ http://www.hoeruinu.com/ |
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ポン・ジュノ
1969年ソウル生まれ。1995年、韓国映画アカデミー11期卒業。短編映画「支離滅裂」でファンを獲得。本作が長編デビューとなる。日常的な空間で全く起きそうにもない奇妙な事件や荒唐無稽な状況を生み出し、都会的だけれども温かく、残忍に見えるけれどもソフトで、現実的だけれでも夢幻的な<日常をモチーフにした娯楽映画>を作り出した。最新作「殺人の思い出」は2003年6月現在韓国で大ヒット上映中。
イ・ソンジェ
1970年生まれ。テレビドラマの端役などを経て、KBSのドラマ「嘘」で注目を浴びる。1998年の「美術館の隣の動物園」で映画デビュー。この作品で第36回大鐘賞新人賞など、その年の新人賞を総なめにする。「アタック・ザ・ガス・ステーション」でさらに飛躍した後、2000年「フランダースの犬」2001年「エンジェルスノー」「新羅の月夜」2002年「公共の敵」など、話題作への出演が続く、今最も期待されている男優といえよう。
ペ・ドゥナ
1979年生まれ。芸能界よりも一般大衆、特にインターネット愛好家に熱烈に歓迎された彼女は、<大衆に選ばれたスター>と呼ばれている。1999年に数多くのCMで専属モデルを務め、脚光を浴びる。TV番組の司会やドラマ出演などをしていたが、本作に専念するために全ての活動を中断した。正式なデビューは「リング(韓国版)」だが、彼女自身本作をデビュー作だと語るほどこの映画には深い愛情を持っている。その後に主演した「猫をお願い」で数多くの女優賞を受賞した。
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