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アジアン・パラム シアター


第24回 わっかんな〜い    
欲望の翼 つづき

つづきは、、、作られなかったのだ。このコラムのことではなく『欲望の翼』のことですぞ。もともと2部作として考案していて、実際一部は既に撮影されていたんだが、役者のスケジュール、制作費、その他諸々諸々の事情で第2部とでもいえばいいのか『欲望の翼2』は幸運にも作られることがなかったのであります。

続編を作れなかった運を才能といっても良いのではないかと思う。例えば唐突にトニー・レオンが登場してくるラストシーンは本来第2部の予告偏的な意味合いがあったらしいのだが第2部が作られなかったからこそ時間や空間を象徴する名(迷)シーンになったといえます。

このラストシーンに代表されるように場面は唐突に始まり、登場人物の脈絡もわからせようとなしない、つまりこの作品は「わかんない」の称号が与えられるのじゃ。

ゴダールの「気狂いピエロ」はよくわかんない。
アート・ブレイキーの「チュニジアの夜」はさっぱりわかんない。
ドストエフスキーの「罪と罰」なんてどうせわかんないから読まない。

わかんな〜〜い

実はこの「わからない」こそがそれまでの香港映画との決定的な違いなのだ。ウォン・カーウァイ自身も「今までの香港映画は何かを説明することに重点をおいてきた。しかしどのように語るかが大事なんだ。」と語っている。そう彼は意図的に(ストーリーの)説明をしなかったのだ。説明の省略が唐突に展開される場面を生み出し、新たな事態の展開のわかんなさに戸惑いつつも圧倒的な映像のかっこよさに身を委ねたならば、あ〜なんて心地よいことでしょう。「気狂いピエロ」も「罪と罰」も、もちろんストーリーはあるんだがむしろ場面場面の強烈さが私達に襲ってくるわけで、「欲望の翼」が肩を並べるとは言わないが、一見脈絡のないような展開なんだけれども、例えば登場人物がいつ振り返るかといったことや、強引なBGMで奇跡的に映画になっていて、実の母親を捜すといったストーリーよりもレスリー・チャンのアパートを中心に展開される愛憎劇、街にうごめく熱気、友情、愛情といった感情が場面場面で爆発しそうな迫力でフィルムに収められていることが感動的なのだ。

「自然な音はそれ自体が音楽だ」とウォン・カーウァイ自身が語っているようにそれまでの香港映画ではほとんど使われていない同時録音で録られた物音が実に見事な効果を発揮しています。以前「アジア的湿り」を書いたんだが、この作品でも雨だけでなく全体に湿ってるんだけどそんな中、役者たちが履くサンダルの音が妙に響き渡り、その乾いた音が若者のどこかドライな感覚を表現することにも成功しているんじゃないかな〜




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コラムニスト 佐々木龍彦

映像作家。1967年兵庫県尼崎市生まれ。
高校在学中より8ミリの製作を始める。88年東京映像芸術学院在学中「七転八倒」(16ミリ短編)製作、ゲリラ的上映活動。新潟映画塾講師も務める。主な作品は「雲ゆきバス」「空から見えた月」(共に16ミリ短編)など。


連絡先:sasaki@asianpalam.com

欲望の翼データ 1990 香港/原題:阿飛正傅 Days of Being Wild
---- CAST
レスリー・チャン
カリーナ・ラウ
アンディ・ラウ
マギー・チャン
ジャキー・チュン
トニー・レオン
---- STAFF
製作総指揮 アラン・タン
製作 ローバー・タン
監督・脚本 ウォン・カーウァイ
撮影 クリストファー・ドイル
美術 ウィリアム・チョン
----
ビデオ ブレノンアッシュ
パイオニアLDC
ラインナップ
第30回 少年、機関車に乗る
第29回 風の丘を越えて〜西便制〜
第28回 インファナルアフェア
第27回 ボイス
第26回 HERO
第25回 ほえる犬は噛まない
第24回 欲望の翼」つづき
第23回 猟奇的な彼女
第22回 欲望の翼
第21回 ディープ・ブルー・ナイト
第20回 藍色夏恋
第19回 われらの歪んだ英雄
第18回 夏至
第17回 接続 - ザ・コンタクト -
第16回 カップルズ
第15回 ディナーの後に
第14回 祝祭
第13回 豚が井戸に落ちた日
特別編 コラムニスト対談(韓国映画編)
第12回 魚と寝る女
第11回 ペパーミント・キャンディー
第10回 ラスト・プレゼント
第9回 グリーンフィッシュ
第8回 友へ チング
第7回 カル
第6回 反則王
第5回 美術館の隣の動物園
第4回 イル・マーレ
第3回 アタック・ザ・ガスステーション
第2回 八月のクリスマス
第1回 春の日は過ぎゆく

トニー・レオン
TVB俳優養成所を経てテレヴィ界で活躍後80年代からその活動を映画へと移行。「悲情城市」(89)で演技力を広く認められるようになる。今やウォン・カーウァイ作品に欠かせない人物で同監督の「恋する惑星」(94)で香港電影金像奨主演男優賞受賞「花様年華」(00)ではカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞し世界的な評価を手に入れる。

ジャン・リュック・ゴダール
アメリカ製B級映画大好きな映画青年も今やその風貌だけでなく発言内容まですっかり哲学者みたいになってしまいましたな〜

アート・ブレイキー
1919年生まれ。物凄いジャズドラマー

ドストエフスキー
ロシアの有名な作家

登場人物がいつ振り返るか
ウォン・カーウァイ自身「背中を撮るのが好き」と語っている。本作も冒頭のサッカー場のシーンのレスリー・チャンの背中から始まり、出生の秘密めいた回想シーン、あるいはレスリー・チャンが鏡に向うシーン等いつ振り向くかといった演出が随所にみられる。

強引なBGM
ゴダールが「勝手にしやがれ」で革命をもたらした功績のひとつですな。



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