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アジアン・パラム シアター


第20回 自転車は青春だ!    
藍色夏恋 - あいいろなつこい
藍色夏恋
リン リリン リ〜ン ビュ〜ンビュ〜ン とかけぬける自転車。俗に“チャリンコ”などとも呼ばれるこの乗り物は時としてとてつもなく心地良い。それは初めて自転車に乗れるようになったあの時の、どこまででも行けると思えたあの感覚を身体の奥深くで潜在的に憶えているからではないのかな〜 なんてことを観賞後の帰り道、自転車に乗りながら感じたわけです。

この作品がもたらす爽やかな心地よさはなんなんだろう?きっと自転車になにかがあるに違いない。で、今回は自転車に注目して「青春とは自転車なのじゃ〜」と、新聞配達員の方や蕎麦屋の出前持ちのにいちゃんたちの白い視線にもめげず声高らかに宣言してしまおう。

主人公は17才の高校生3人。女子高生モン・クーロウ(グイ・ルンメイ)と親友リン・ユエチェン(リャン・シューホイ)そしてリンが想いをよせるチャン・シーハオ(チェン・ボーリン)。

藍色夏恋モンはリンが書いたラブレターをチャンに渡す。が、そのラブレターは差出人がモンの名前になっていた。恥ずかしがったリンがモンの名前を書いたのだ。勝ち気なモンは素っ気なく振る舞うが愛の告白と受け取ったチャンは猛烈なアプローチを始める。最初は頑なだったモンも次第に心を開きはじめ・・・ 逆にチャンはいくらアプローチしても素っ気無いモンに振り回されていることに苛立ちはじめ・・・ そしてモンとリンの関係もギクシャクしはじめて・・・

ってなストーリーなのだが、今、こうして書いていても「〜しはじめて・・・」といった言葉が重なってしまうように彼らは固まっていなくて、価値観も感情も不安定なのだ。自分が一体だれを好きなのかもわからず、ようやく芽生えた「好き」という感情に戸惑っている彼らは、勢い良く漕げば安定しているのにひとたび漕がなければ(戸惑えば)転倒してしまう自転車のようではないか。

徒歩から自転車、やがてバイク、自動車 と人類の発明は進歩してきたわけで、これを大人への成長とするなら車の隙間を縫うように自転車に乗って台北の街を走り抜ける彼らはまさに「大人の階段の〜ぼ〜る〜」その瞬間でありまぎれもなく青春なのじゃ。

藍色夏恋ラストシーンで夏の眩しい太陽が照りつける中、自転車で疾走する二人の受けているであろう風の心地よさが伝わってくるのは冒頭で述べたように初めて自転車に乗れた時の感動が蘇ってくるからだけではなく、戸惑いながらも「好き」という感情が確信に近付いていくかのように勢い良く自転車を漕いでいるからではないか?

事実、「好き」という感情にまだ立ち向かえていないリンは(この映画の中では)自転車に乗れず(乗らず)、モンやチャンよりもなんだか幼くみえてしまう。チャンが(モンに頼まれて)リンを送って行くシーンで感情がぶつかりあわないのは、リンが歩いていてチャンが自転車にのっているからではないかな〜(この徒歩と自転車の微妙な速度がまた実にいいんだけどもね)逆に(この映画の中では)自転車に乗っているモンとチャンは感情をぶつけあえるわけで、例えば夜の体育館(レセプションの準備でパイプ椅子が並べられている)で言い争うシーンで、モンは出て行こうとし、チャンは留まらせようとしているのだが、二人ともどこに行きたいのか、何をしたいのかなんてことはわかっていない。

つまりwhere?にもwhat?にも答えがないんだよね〜 どこに向かっているのか?何がしたいのか?そんな意味だとか、理由だとかは彼らにはどうでもいい話でありまして、初めて自転車に乗れた時に、どこに行くわけでもないのにどこまでも行けると思えたように、モンとチャンは行き先などわからなくても漕ぎ続けて行くのだ。その行動に一片の不安も感じさせないのは、初めて人を好きになった時のあの海よりも深く、空よりもでかいパワーで突き動かされているからなんだよ。


2003年7月26日(土)より 東京・シャンテシネ他で全国順次ロードショー。


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コラムニスト 佐々木龍彦

映像作家。1967年兵庫県尼崎市生まれ。
高校在学中より8ミリの製作を始める。88年東京映像芸術学院在学中「七転八倒」(16ミリ短編)製作、ゲリラ的上映活動。新潟映画塾講師も務める。主な作品は「雲ゆきバス」「空から見えた月」(共に16ミリ短編)など。


連絡先:sasaki@asianpalam.com

藍色夏恋(あいいろなつこい)データ 2002 台湾・フランス/原題:藍色大門
---- CAST
チャン・シーハオ チェン・ボーリン
モン・クーロウ グイ・ルンメイ
リン・ユエチェン リャン・シューホイ

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公式ホームページ
http://www.natsukoi.net/
---- STAFF
製作 ペギー・チャオ
シュー・シャオミン
監督・脚本 イー・ツーイェン
編集 リャオ・チンソン
録音 ドゥー・ドゥーツー
音楽 クリス・ホウ
美術 シァ・シャオユィ
撮影 チェン・シャン
照明 スー・ツァンヤン
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製作会社 アーク・ライト・フィルムス
(吉光電影公司)
ムービーアイ+トライエム共同配給
ラインナップ
第30回 少年、機関車に乗る
第29回 風の丘を越えて〜西便制〜
第28回 インファナルアフェア
第27回 ボイス
第26回 HERO
第25回 ほえる犬は噛まない
第24回 欲望の翼」つづき
第23回 猟奇的な彼女
第22回 欲望の翼
第21回 ディープ・ブルー・ナイト
第20回 藍色夏恋
第19回 われらの歪んだ英雄
第18回 夏至
第17回 接続 - ザ・コンタクト -
第16回 カップルズ
第15回 ディナーの後に
第14回 祝祭
第13回 豚が井戸に落ちた日
特別編 コラムニスト対談(韓国映画編)
第12回 魚と寝る女
第11回 ペパーミント・キャンディー
第10回 ラスト・プレゼント
第9回 グリーンフィッシュ
第8回 友へ チング
第7回 カル
第6回 反則王
第5回 美術館の隣の動物園
第4回 イル・マーレ
第3回 アタック・ザ・ガスステーション
第2回 八月のクリスマス
第1回 春の日は過ぎゆく


マスターのちょっと一言

この映画を直観的に酒に例えて一言。
「シー・ショア」
写真BAR白&黒のオリジナル・ノン・アルコール・カクテル。 レシピは秘密ですが、ほんのり甘く、さわやかなレモンの味。ピュアな初恋はやっぱりこうでしょ。もちろんアルコール抜きで。


自転車
他に自転車が登場する青春映画といえばやはりフランソワ・トリュフォーの「あこがれ」(57)(短編)が思い出される。あと今関あきよしの「アイコ16才」も富田靖子が自転車に乗っていたが故に青春映画になりえたんじゃなかろうか?

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