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| われらの歪んだ英雄 |
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「韓国映画らしい韓国映画」を探してシリーズ第2弾。もっと骨太の作品はないかいな、と探していたら、見つけました。1992年公開のパク・チョンウォン監督作品、『われらの歪んだ英雄』。
これは、かなりユニークな構造を持った映画だ。ストーリー自体は、田舎の小学校を舞台に子どもたちの権力闘争や派閥争いを描いているのだが、それがそのまま、当時の社会的・政治的状況───イ・スンマン政権末期、1960年の不正選挙とそれを原因として起こった4月革命───を反映したつくりになっている。原作(イ・ムニョル・1987年刊)のプロットがそうなっているらしいが、この設定がとにかくよくできている。
ソウルから田舎の小学校に転校したハン・ビョンテは、クラスを牛耳る級長のオム・ソクテに出会う。勉強も1番、体力にも優る───このソクテ、どうみても小学生に見えないが、映画中の設定でも彼だけ15歳ということになっており、この辺りに彼の屈折の背景があるのかもしれない───ソクテは絶対的な存在であり、その権力は担任教師以上のものがある。ソウルにはいなかったその存在に驚き、反発するビョンテ。しかし、その抵抗はソクテのあまりの力の大きさにあえなく敗北し、以後はその忠実な部下になるが・・・
ここまでが、前半。正直言って、前半はやや退屈した。それほど予備知識もなく、子ども社会におけるいじめの理不尽さを描いた映画なのかなー、と思って観ていたのだが、ビョンテの都会っ子にありがちな頭でっかちでエリート意識丸出しの言動が鼻につき(先生にチクったりするしね)、あまりノっていけないのだ。
それが、後半、ソクテの正体───実は好成績も試験に替え玉を使った結果だったり、陰でかなり陰湿ないじめもやっていたり───が明らかになっていくにつれ、俄然面白くなっていく。そしてそれは、新学期になり、ソウルから新しい風とともに現れた若い男性教師(チェ・ミンシク)の登場によってピークに達する。
理想に燃える教師は、ソテクのあまりの完璧振りを目の当たりにして、逆に疑念を抱き、ついに、彼が「汚れた英雄」であることを突き止める。ソクテが教師から「けつバット」をされる場面での、怒りと屈辱にまみれた表情たるや、凄まじいものがある。
そう、これは明らかに「4月革命」のメタファーなのだ。ただし、外部からの強大な力(この場合は新任教師)により、それまでの独裁者の不正と腐敗が白日の下にさらされる、という構図は、革命というより「侵略による政権転覆」に近いかもしれない。どちらにせよ、いったん独裁者の権威が失墜するや、それまで彼に盲従していた人民(クラスメイト)たちが手の平を返したように彼を糾弾し始める、という光景は、4月革命にかぎらず、世界中で過去何度も繰り返されてきた馴染み深い──一記憶に新しいところでは、先のアメリカによるイラク侵攻の際に、フセインの像が民衆により引き倒されたニュース映像が思い起こされる───光景だ。
登場人物たちのキャラクターもまた、それぞれ見覚えがある。主人公のビョンテは、知識人の代表だろう。当初は独裁者に反発するものの、いったん服従を誓うや、今度は誰よりも従順な部下になる。民衆たる他のクラスメイトたちが、教師からソテクの罪を言えと命令され、嬉々として告発する───副級長や体育委員など、側近だったものほど激しく彼を攻撃するのも世の常だ───のに対し、ビョンテだけが「分からない」と呟く。「転向」を認められない知識人の脆弱さを象徴するシーンである。
そしてその時、少し頭の弱いキャラクターの少年が、「みんなも悪い!」と叫ぶのだ。彼には、知識はなくても直感で分かっている。「悪」は独裁者だけではなく、それに盲従する民衆もまた共犯者であることを。
彼ら民衆は、一人の独裁者が倒れた後も、次なる独裁者が現れた時にはまた無自覚に盲従するに違いない。この映画の中でも、くだんの新任教師が30年後には国会議員になっており、大人になったクラスメイトたちがその国会議員にへつらう様が描かれているが、まさにこういうことだ。従う相手がAからBに変わっただけで、本質は何も変わっていない。しかし同時に彼らはしたたかでもある。誰につくのが自分たちにとって有利なのか、無意識に判断し、行動する。時間はかかるだろうが、最後に勝つのは彼らだ。皮肉にも、4月革命以後の韓国の歴史がそれを物語っている。
小さな子ども社会の葛藤を題材としながら、社会状況と政治の本質を描き出す。簡単なように見えて中々できない芸当である。パク・チョンウォン、いや韓国映画恐るべし。ソクテ役のホン・ギョンインがめちゃめちゃいい味を出しているが、この映画以降、大した活躍をしていないらしいのがとても残念。
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コラムニスト 丸山 正樹
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1961年東京生まれ。早稲田大学演劇科在学中に、シナリオ講座にてシナリオを学ぶ。 1996年、Vシネマ「湘南爆走族/帰ってきた伝説の5人」でシナリオライターデビュー。Vシネマ「痴漢白書9」ほか、テレビシナリオに「恋、した。」、舞台脚本として「アナザールーム」(椿組)など。企業・官庁の広報ビデオのシナリオも多数てがける。

連絡先:maruyama@asianpalam.com
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---- CAST
| オム・ソクテ |
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ホン・ギョンイン |
| ハン・ビョンテ |
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コ・ジョンイル |
| キム先生 |
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チェ・ミンシク |
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---- STAFF
| 監督 |
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パク・チョンウォン |
| 原作 |
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イ・ムニョル |
| 脚本 |
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チャン・ヒョンス パク・チョンウォン |
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| 製作 |
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大東興業 |
| ビデオ |
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エースデュースエンタテインメント |
| DVD |
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IMAGICA エースデュースエンタテインメント |
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マスターのちょっと一言
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この映画を直観的に酒に例えて一言。
「ジャック・ダニエル」
子供達の話だけど実は子供の世界に大人の世界を投影している。西部劇の酒場でバーボンをあおっている悪玉のボスのイメージかな。
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パク・チョンウォン
1958年ソウル生まれ。韓国映画アカデミーの一期生。助監督を経て、「九老アリラン」(1989年)で監督デビュー。第2作目の本作で青龍賞最優秀作品賞、監督賞を受賞。その他の作品として、「永遠なる帝国」「虹鱒」「パラダイス・ヴィラ」など。デビュー当時は社会派としてならしたが、最近ではよりパーソナルな題材を好むようになっているようだ。
4月革命
大韓民国初代大統領・李承晩(イ・スンマン)は、就任以来徹底した反共・親米政策を進め、1960年3月の大統領選では4選をはたした。しかし、長期にわたる独裁政治と政治腐敗に対する国民の不満は強く、大統領選での不正に対する抗議の暴動をキッカケに、大規模な反政府運動が起こった。1960年4月にはソウルでイ・スンマンの退陣を要求する学生のデモが起こり、この運動が全国に広がり、各地でデモや流血事件が続く中、イ・スンマンは退陣、ハワイに亡命した。
4月革命以後の韓国の歴史
イ・スンマンの退陣後、一度は民主党政府が誕生したが、1961年に軍事クーデターが起こり、パク・チョンヒが国家再建最高会議議長を経て大統領となった。以降、1979年にパク・チョンヒが暗殺されるまで軍事政権が続くが、同時に急速な経済発展をとげる。現在の韓国の繁栄の下地はその頃にできたものだろう。
ホン・ギョンイン
1976年生まれ。小学四年生の時から演技学院と子ども劇団に所属。子どもドラマに何本か出演した後、本作で映画デビュー。天性の演技力と無限の可能性を披露した。その後の出演作として、「ハリウッド・キッドの生涯」「永遠なる帝国」「達磨よ、遊ぼう」など。最近は、テレビなどで活躍しているらしい。バラエティやコメディドラマで愛嬌のある明るい笑顔を振り撒いているというのが(本作だけ観ていると)信じがたい。
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