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アジアン・パラム シアター


第16回 待つことはやさしさなのよ〜   
カップルズ

「広くアジア映画に拡大!」 とこのコラムは新装開店したんですが、いざアジア映画と言われてもそれこそ星の数ほどあるわけでして、大体一口に「アジア」といっても一体どこからどこまでの地域をさすのか?以前の対談でも話題になりましたが「アジア映画」といわれる決め手は何なのか?監督か?役者か?国籍(ロケ地)なのか?言語や宗教か?それとも出資者(出資国)で決まってしまうのか?グローバル時代に難しいカテゴリーなんじゃなかろうか?ましてやその明確になってはいない「アジア映画」と言う枠組みの中からさらに一本作品を選定するなんて富士の樹海で泳ぐようなもんだ(実際そんなことしたことないけど・・・)。

まぁこのコラムの中で私なりの「アジア映画」とはなんぞや?ってのを追々語っていければな〜 なんて思っています。

さてそこで、今回は丸山氏のコラム「豚が井戸に落ちた日」の中の「無感動の系譜」(あれは実に見事な定義でした)に出て来た「カップルズ」を取り上げてみたい。なぜなら、やれアジア映画は何だ〜韓国映画だ〜中国映画とはなんぞや〜 なんて屁理屈言うまえに(ん?言ってるのはオイラ?)私のフェイバリットな監督さんだからでっす。

さてこの「カップルズ」というタイトルからもわかるようにこの作品はたくさんの人間が絡み合う青春群像劇と言えるでしょう。原題は「麻将」(麻雀)なのですが、このふたつのタイトルがいろんな意味に解釈できるほど混沌として絡み合っていて、その混沌とした人間関係が猥雑な台北の街に見事にはまっています。決して単純ではない糸を解きほぐした時初めてこの映画は無限の広がりを見せるでしょう。

詐欺や売春の斡旋をしているレッドフィッシュ、偽占い師リトルブッタ、百発百中のナンパ師ホンコン、新人のルンルン。彼ら4人は台北のアパートで一緒に暮らしている不良少年だ。

ある時ふとしたことから英国人の恋人マーカスを追いかけて台湾まで来たフランス人娘マルトと知り合うレッドフィッシュとルンルン。レッドフィッシュはマルトを売春させて儲けようと企むのだが・・・な〜んてのがストーリーと言えなくもないが、「無感動の系譜」に君臨する作品だけあってストーリーよりも映像で勝負してます。

エドワード・ヤン監督の特徴として1カットが長い俗にいう長回しの撮影であること。その長回しのカットにアップカットがほとんど無いこと。さらに俯瞰ショットが多い、等が挙げられるが、群像劇をアップカットの無い長回し撮影では登場人物すら特定しづらいんだけども、俯瞰ショットで映し出した台北の街に主人公たちのはちきらんばかりの「生」を見事にちりばめているのです。

孤独、暴力、殺人、性の倒錯など悪いことばっかししてるのになぜかやさしさに満ちているのは、例えばマルトとルンルンが売春をやるやらせないといった口論を例のアップの無い長回しで描いているのだが、飛び出して行ってしまったマルトをルンルンは追いかけもせずただうなだれているだけで、またキャメラもマルトもにもルンルンにもより添おうともせず、やがてマルトが戻って来るまでキャメラはそして映画はじっと待ち続けるという長い1カットに込められた待つというやさしさからではないのかな〜 そして映画を観ている私達もマルトが戻って来るまで待ち続ける(画面を凝視する)こととなり、どこか覗き見のような構図が、なんだか映画が主人公たちを包み込んでいるようにも思われ、私達も知らず知らずのうちに映画と同調してしまうのだ。

アップカットが無い無いと連呼してはいますが、もちろん全く無いわけでは無く、この作品のアップカット(ルンルンがマルトを匿うシーン)はこの上なく美しく感動的なのじゃ〜 御覧遊ばせ。




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コラムニスト 佐々木龍彦

映像作家。1967年兵庫県尼崎市生まれ。
高校在学中より8ミリの製作を始める。88年東京映像芸術学院在学中「七転八倒」(16ミリ短編)製作、ゲリラ的上映活動。新潟映画塾講師も務める。主な作品は「雲ゆきバス」「空から見えた月」(共に16ミリ短編)など。


連絡先:sasaki@asianpalam.com

カップルズデータ 1996 台湾/原題:麻将(麻雀)
---- CAST
ヴィルジニー・ルドワイヤン
タン・ツォンシェン
チャン・チェン
ワン・チーザン
クー・ユールン
エイレン・チン
---- STAFF
製作 ユ・ウェイエン
製作総指揮 デヴィッド・サン
監督・脚本 エドワード・ヤン
撮影 リ・イジュ、リ・ロンユー
音楽 ドウ・ドゥチー
----
ビデオ:アップリンク/提供:シネカノン
ラインナップ
第30回 少年、機関車に乗る
第29回 風の丘を越えて〜西便制〜
第28回 インファナルアフェア
第27回 ボイス
第26回 HERO
第25回 ほえる犬は噛まない
第24回 欲望の翼」つづき
第23回 猟奇的な彼女
第22回 欲望の翼
第21回 ディープ・ブルー・ナイト
第20回 藍色夏恋
第19回 われらの歪んだ英雄
第18回 夏至
第17回 接続 - ザ・コンタクト -
第16回 カップルズ
第15回 ディナーの後に
第14回 祝祭
第13回 豚が井戸に落ちた日
特別編 コラムニスト対談(韓国映画編)
第12回 魚と寝る女
第11回 ペパーミント・キャンディー
第10回 ラスト・プレゼント
第9回 グリーンフィッシュ
第8回 友へ チング
第7回 カル
第6回 反則王
第5回 美術館の隣の動物園
第4回 イル・マーレ
第3回 アタック・ザ・ガスステーション
第2回 八月のクリスマス
第1回 春の日は過ぎゆく


マスターのちょっと一言

この映画を直観的に酒に例えて一言。
「ジン・リッキー」(ジン+ソーダ+ライム)
透明でクールな液体の中に浮かぶ炭酸の泡たち。さわやかで飲みやすいけど、ジンの苦味が確かに存在する。
そんなジン・リッキーを一口飲んではグラスをながめている感じ、かな。


エドワード・ヤン
「海辺の一日」(1983年)で長編映画デビュー以来、現代の台北を舞台にした人間関係にこだわりながら、一作ごとに先鋭的な映像を開拓し、アジアというフィールドを越える存在となった台湾ニューウェーブの雄。代表作に「恐怖分子」(1986年)「クーリンチェ少年殺人事件」(1991年)ほか

俯瞰(ふかん)ショット
被写体を上から見下ろした角度で撮影したショット

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