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| 豚が井戸に落ちた日 |
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とゆーわけで、今回からリニューアルされたこの映画コラム。
え、何が変わったの?という方のために説明すると、今回から「韓国映画」という枠をとっぱらい、広くアジア映画、ひいては映画全般について語っていこう、ということになったのである。
とはいえ、韓国映画に出あったばかり、まだようやく入り口に立った程度の私としては、もう少し韓国映画にこだわっていきたいと思う。紹介する映画の選び方も、今まで<俳優つながり>などと称し、行き当たりばったりに選んでいたことを反省し、韓国映画史上エポックメイキングになったような作品と、比較的最近の作品を交互に紹介していきながら、韓国映画の変貌のあり様と行く末を考えていけるようなスタイルをとっていくつもり。ま、実際にどうなるかはやってみないと分かんないけどね。
で、その心機一転の一発目に選んだのが、ホン・サンス監督のデビュー作『豚が井戸に落ちた日』。この映画を選んだのは、前回の対談で佐々木氏の方から「韓国映画の流れを変えた作品」という趣旨の発言があったからなのだが、観てみて、「なーるなーる」と頷きました。
主人公は、現代のソウルで生活する四人の男女。売れない小説家・ヒョンソプは、人妻・ポギョンと不倫しつつ、かつての教え子・ミンジェとも関係を重ねている。ポギョンの夫は出張先で仕事が思うようにいかず、娼婦を買うが、コンドームが破れて性病の恐怖にかられる。映画館のもぎりをするミンジェは、けなげにもヒョンソプの仕事を手伝い、彼に小遣いをあげるためにあやしげなバイトに手を染めるが・・・
と、一応ストーリーを紹介してみたものの、この映画の場合、ストーリーをいくら語っても映画の全体像はまるで見えてこない。構成の仕方も、独立した挿話からなるオムニバス映画のように始まりながら、やがて、それぞれの登場人物たちのつながりが明らかになっていく、という複雑な手法をとっている。途中、登場人物が不可解な行動をしたり、現実か幻想か区別のつかないシーンが説明もなく挿入されたり、と決して分かりやすい映画ではない。ラストのあたりで何か劇的なことが起こっているようなのだが、それもはっきりとは明示されない。映画にエンターテイメント性を求める人ならきっと怒り出すだろうし、かなり映画好きな人であっても、好き嫌いがはっきり分かれるのではないか。
で、お前は好きなの嫌いなのどっちなの?と聞かれれば・・・「その両方」ってことじゃダメ?いや、決してふざけて言っているわけではなく、この映画自体、白黒はっきりさせればいいってもんじゃないでしょ、というスタンスをとっているので、観る方も、「よく分かんないけどなんか変な映画だったなー」とか、「ストーリーは退屈だけど、妙にあのシーンが印象に残ったなー」とか、そんなふうにごくごく感覚的に判断すればいいのではないだろうか。
で、一番最初の記述に戻るのだが、私がこの映画を見て「なーるなーる」と頷いたのは、この作品が、それ以降のいわゆる<韓国新世代映画>を生む土壌をつくった、ということが腑に落ちたからである。実際、本作の公開(1996年)後、イ・チャンドン(「グリーン・フィッシュ」1997年)、ホ・ジノ(「八月のクリスマス」1998年)、と現代の韓国映画を代表する監督たちのデビューが相次ぐ。
広く世界に眼を向けて見ると、日本で言えば北野武の「ソナチネ」が1993年、黒沢清の「CURE/キュア」が1997年。台湾ニューウェーブの代表エドワード・ヤンの「カップルズ」が1996年。ヨーロッパでは、デンマークの映画集団<ドグマ95>の結成がその名の通り1995年。つまり、1990年代の半ばから、ストーリーよりも語り口を重んじる、よく言えば「作家的」で「スタイリッシュ」で「感覚的」な、悪く言えば「難解」で「退屈」で「自閉的」な、いわば「無感動の系譜」とでも呼べる映画群が世界中で主流になっていくのだ。そして、<せっかちで感動しやがり>という国民性を持つ韓国でさえも、この系譜につらなる映画群が同時期に突然のように現れる。その先駆的な作品が、この「豚が井戸に落ちた日」、ということになるのではないか。
実際この映画、不条理とまでは言わないまでも、分からないことは多い。なぜヒョンソプはあんなダサくて嫌な奴なのに美女二人からもてるのか。なぜミンジェはそれまで相手にしなかった男と突然寝るのか。いきなり挿入されるやたら激しいベッドシーンは何なのか。ラストの方で描かれる猟奇的なシーンの男女三人は誰なのか。大体、「豚が井戸に落ちた日」って一体何やねん!
だが、この映画に対する「なぜ」は、以前「カル」の紹介の時に連発した「なぜ」とはちょっと意味合いが違う。監督であるホン・サンスが、きちんと答えを用意していながら、しかし答えを明示するだけが映画じゃないでしょ、という明確な意志を持っていることが分かるから。
ラスト、男はアイスクリームを食べ、女は新聞を並べる。何のこっちゃ分からんが、なんか、いいじゃん。
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コラムニスト 丸山 正樹
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1961年東京生まれ。早稲田大学演劇科在学中に、シナリオ講座にてシナリオを学ぶ。 1996年、Vシネマ「湘南爆走族/帰ってきた伝説の5人」でシナリオライターデビュー。Vシネマ「痴漢白書9」ほか、テレビシナリオに「恋、した。」、舞台脚本として「アナザールーム」(椿組)など。企業・官庁の広報ビデオのシナリオも多数てがける。

連絡先:maruyama@asianpalam.com
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| ▼『豚が井戸に落ちた日』データ |
1996 韓国/原題: |
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---- CAST
| キム・ヒョソプ |
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キム・ウィソン |
| ハン・ドンウ |
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パク・チンソン |
| ポギョン |
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イ・ウンギョン |
| ミンジェ |
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チョ・ウンスク |
| ヤン・ミンス |
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ソン・ミンソク |
| ドンソク |
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ソン・ガンホ |
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---- STAFF
| 監督 |
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ホン・サンス |
| 脚本 |
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ヨ・ヘヨン/ホン・サンス /チョン・デソン/ソ・シネ |
| 原作 |
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ク・ヒョソ『面識のない夏』 |
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| 製作 |
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東亜輸出公司 |
| ビデオ発売元 |
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KSS FILMS |
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