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日本でもずいぶんメジャーになってきた韓国映画。このコラムはシナリオライタ−や映像作家等、映画関係の方々に執筆をお願いしています。韓国映画未体験の方には親しみを、既に「この映画見た」という方にも、作品を再吟味するネタはいかがでしょうか?
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| 魚と寝る女 |
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痛い、痛い映画です。何が痛いって釣針を束ねて飲込んでしまうんだもん。思わず目を背け、身体をくねらせてしまいます。
その後、のどから釣針を抜くまでの視覚的痛さは圧巻です。当時、海外の映画祭で嘔吐する退場者が続出したというのもうなずけますな?
だけどもこの作品は奇をてらっただけの映画では決してない。舞台は森林に囲まれた湖。(厳密には湖ではないのかも知れないけどここでは湖と呼んでしまおう)その湖には釣客が泊まる小屋舟が人工の浮島のように浮かんでいる。この釣場を管理する女(ソ・ジョン)は、その浮島をボートに乗って行交うんですね。あーもうこれだけで私なんかワクワクしてしまいます。ちょっぴり不思議で、秘密めいていて、不便で、なんだかとても映画的な空間ではないですか。
さて森林に囲まれた広大な湖という自然な環境が舞台なのだが、ここに集まってくる人々は皆都会人であり、又、常連客と思われる釣客の1人は携帯電話で家族に電話しているし、時計を落とした金持ち風のおじさんは携帯電話ですぐさまダイバーを呼び寄せ水中を捜索させ、売春婦は原付バイクでやってくることから決して都会からそう遠く離れてはいないようです。
つまりこの作品もまた「豚が井戸に落ちた日」あたりから連綿と続く、都会とそこに住む人々を描く韓国新世代映画などと呼ばれる流れの一つといえましょう。
事実、新世代と呼ばれる作品群とおなじように広大な湖なのにどこか閉塞感が画面を支配しています。この作品は野外のロケーションであるというのに画面のほとんどが空を写し込まない構図であるし、釣小屋は人が立つことすら出来ないように設計されているのだ。なるほど森林で遮られた湖と、立つことすらままならない小屋の中に役者たちを封じ込めることで私達はなんともいえない閉塞感のようなものを感じてしまうのだろうか? 確かに言葉を発しないソ・ジョンの心情のようなものが言葉などなくても画面を通して伝わってくるし、また、自殺しようとこの釣場に訪れた男(キム・ユソク)の感情もこの狭い空間に封じ込められることでより深くなることでしょう。釣針を飲込むといった一時の視覚的痛さだけではなく、そこに到達するまでの空間演出のようなものが実に実に見事なんですね。
で、この作品は確かに痛い映画であり、それは画面のそこここにちりばめられ、ついに「釣針自殺」で爆発し、さらに針を取り出したソ・ジョンはキム・ユソクを求めなんとセックスしちゃうのだ。まさに痛みと快楽の波状攻撃ですぞ。死の淵をさまよう痛みと生への執着の快楽の見事な融和の瞬間なのだ。
この後ソ・ジョンもまた自傷行為をするに至るのだが(こちらも名状しがたいほど痛い!)その時の(痛みの)叫びが湖面に響き渡り「性=生」の叫びとして私達の鼓膜にからみつき、痛いということは生きているということなんだと改めて認識し、思えば、自殺志願の男と生きる力に乏しかった女も、自傷行為のあとでは、生に執着していることにいまさらながら気付き、その生きようとする姿に私達の心は突き動かされてしまうことでしょう。生きていこうとする二人はやがて閉塞から開放されることだろう・・・
そして、その姿に同調してしまった私達も開放されるのです。もっとも殺人を犯してしまったソ・ジョンとキム・ユソクが幸せに生き長らえたのかどうかは映画の中では特定していないんだけど、例えそれがイリュージョンだとしても、あのラストの開放感を映画体験と呼ばずして何と呼ぼう。正に映画的開放の瞬間なのだ。
ほら。釣針の気持ち悪さが解き放されたでしょう?
公式ホームページ(韓国) http://www.theisle.co.kr/
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コラムニスト 佐々木龍彦
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映像作家。1967年兵庫県尼崎市生まれ。
高校在学中より8ミリの製作を始める。88年東京映像芸術学院在学中「七転八倒」(16ミリ短編)製作、ゲリラ的上映活動。新潟映画塾講師も務める。主な作品は「雲ゆきバス」「空から見えた月」(共に16ミリ短編)など。

連絡先:sasaki@asianpalam.com
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| ▼『魚と寝る女』データ |
2000 韓国/原題: (島) |
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---- CAST
| ヒジン |
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ソ・ジョン |
| ヒョンシク |
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キム・ユソク |
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---- STAFF
| 監督・脚本・美術 |
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キム・ギドク |
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| 製作 |
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ミョン・フィルム |
| 提供 |
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CJエンターテイメント |
ビデオ・DVD 販売 |
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日本コロムビア |
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「魚と寝る女」ストーリー
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世の中から隔離されたような湖とも入江とも判別つかない釣場。女主人のヒジン(ソ・ジョン)は釣客らに飲食物を売り、時には身体を売って生活している。ある日、この釣場に恋人を殺害した男ヒョンシク(キム・ユソク)が自殺場所を求めてやってくる。ヒジンは死のうとしているヒョンシクに同質のものを感じる。ヒョンシクは拳銃で自殺を図るがヒジンは水中からキリで突いて自殺をとめる。やがて二人には妙な感情がめばえる。しかし、ヒジンはヒョンシクの"求め"に応じず、売春婦をあてがう。ヒョンシクの繊細さに惹かれた売春婦は商売抜きで通うようになる。ある日釣場に検問に来た警察がたまたま逃走していた手配犯を取り押さえるのを見たヒジンは心配になってヒョンシクの釣小屋を覗く。すると状況に耐えきれないヒョンシクは釣針を飲込んで自殺を図っていた。ヒジンは警察の目からヒョンシクを匿い、介抱し、そして結ばれる。それからお互いに求め合うのだが、ヒジンの執拗さに耐えきれなくなったヒョンシクは釣場からの脱出を試みるのだが・・・
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キム・ギドク監督
1960年慶尚北道生まれ。「鰐」('96)で韓国映画界にセンセーショナルにデビューして以来、独特な映像美で衝撃的、猟奇的な作品を常に低予算で作り続け、別名「忠武路のワニ」(ソウルの忠武路は映画の中心地)と呼ばれている。「野生動物保護区域」('97)「受取人不明」「悪い男」('01)などの作品があり、最新作「海岸線」('02)では人気俳優チャン・ドンゴン(第8回「友へ チング」参照)を主人公に海岸警備隊員を描き、02年11月に開かれた釜山国際映画祭の開幕を飾った。
ソ・ジョン
1972年ソウル生まれ。「ペパーミント・キャンディー」('99)の主人公ヨンホ(ソル・ギョング)の愛人ミス・リー役でデビュー。セクシーな役が多いが本作でのセリフを一言も発しない演技力・表現力で一躍有名に。その他「2 1 セックス」('02)等に出演。
「豚が井戸に落ちた日」
1996年。人気監督ホン・サンスのデビュー作。売れない作家を中心に、都会に生きる4人の男女の姿を描いた作品。
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