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アジアン・パラム シアター


日本でもずいぶんメジャーになってきた韓国映画。このコラムはシナリオライタ−や映像作家等、映画関係の方々に執筆をお願いしています。韓国映画未体験の方には親しみを、既に「この映画見た」という方にも、作品を再吟味するネタはいかがでしょうか?

第6回 でるか!必殺!?ウルトラパワーボンボン?   
反則王 反則王

なんつったってソン・ガンホが最高!!です!数々の笑えないギャグ!

いやいや“笑えない”ってのは決してつまらないとけなしているんではなく、吉本新喜劇辺りでいうところの“ツッコミ”のない笑いとでもいいましょうか、、、つまりクスクス笑いのオンパレードですね。観ている私達も「笑ってもいいんだよね?」とつい自問自答してしまう。用意された“さぁ笑え”って感じの笑いではないんだな〜 これほどクスクス笑いを羅列できたのは監督はもとより、やはりソン・ガンホの唯一無二の“間”のおかげでしょう。

反則王例えば、ソン・ガンホ演じる冴えない銀行員が通りかかったプロレスジムを覗いていると、中からジムの関係者らしき人が出てくるシーンで、ソン・ガンホはすかさず携帯電話を取り出して通話中を装おうのだが(ジムの人からすれば)通話中のはずの携帯電話にあろうことか着メロが鳴り響いてあえなく偽装工作がばれてしまう というギャグの“オチ”や“ツッコミ”の無さにやや戸惑い、大笑いするタイミングを失った私達はクスクス笑いをするしかないのだ。

文章にするとつまらんが映画(ソン・ガンホ)だとクスクス笑えてしまうこの絶妙の間を劇中の幻の技の名を借りて“ウルトラパワーボンボン”と呼んでおこう。反則用のフォークではなく本物のフォークで相手を突き刺して血が吹き出すギャグや相手の目を突いたり、尻を突いたりする“突き”のギャグも(これらは大爆笑!だけどね)やはり“ウルトラパワーボンボン”だからこそおもしろいのだ。

反則王さてさてそもそもプロレスとは、プロのレスリングのことで、当然アマレスもあるんだけど、野球やボクシングなどと違いルールや試合形式まで違っていてこれはもう“プロレス”という単語ですね。で、初期のプロレスはヘッドロックで相手をキリキリ締め上げるだけだったが、後に“鉄人”と呼ばれるルー・テーズがヘッドロックをかけられたまま後ろに投げ飛ばしたのがバックドロップの誕生であり、近代プロレスの始まりと言われています。

ソン・ガンホが日頃上司からかけられるヘッドロック(劇中ではそういってるがこれは明らかにチョークスリパーだ)に一矢報いたいとバックドロップを会得しようとするのは自然の流れといえますね。近代プロレスはその後、どんどん技が派手になりショーアップしていき、本来は格闘競技だったのに、格闘技系とは一線を異にされてしまいます。乱暴だけど、現在のプロレス=エンターテイメントと見ることもできましょう。事実、プロレス中継を観るソン・ガンホの父親の表情はまるでバラエティー番組でも観るようだもんな。

反則王で、プロレスがエンターテイメントであるなら、プロレス=映画とも言えます。事実、この作品の中で八百長試合を依頼されたプロレスジムの館長が、台本片手に演技指導(?)している姿はまるで映画の撮影現場みたいだしね。プロレスが本来格闘技であるのに格闘技界と分けて見られるように、“楽しむ”ということではエンターテイメント(娯楽映画)もアート(芸術映画)も同じはずなのに別物として語られている状況に似ているような気がする。

エンターテイメントはとかくバカにされがちだな〜 と痛感するのがソン・ガンホが父親に「これから真面目になります」と打ち明ける時だ。この時のソン・ガンホがスーツに覆面被った姿であったがため父親にはふざけている(バカにしている)としか写らず怒り狂うんだけど、映画を観ている私達はソン・ガンホが真剣なのは知っているから笑いつつもどこか哀しい。この後同僚の女の子にもふられ、覆面スーツ姿で走るといった一連のシーンのおかしさは、ギリギリのところで反応しあっていた悲劇と喜劇の枠が崩れさりエンターテイメントへと回帰する瞬間であるからだ。クスクス笑いを積み重ね、ついには悲劇と喜劇の垣根もあっさりと飛び越えてしまう。これこそ“ウルトラパワーボンボン”なのだ!ソン・ガンホ以外に誰が体現できようか!

反則王ラストシーンで我々の「笑ってもいいんだよね?」という自問自答は最高潮に達する。なぜならその場面は(映画の中の話とはいえ)プロレスのリングではなく、現実の社会だからだ。ヘッドロックばかりかけてくる上司に一矢報いるというストーリーさえ崩壊するのだ。プロレスジムの館長の言った「プロレスはショーじゃない。人生がショーなんだ」という科白が胸に響く。ラストに降る雪は技術的には美しくもなんともないはずなのに、なんともの哀しいことでしょう。あぁ ウルトラパワーボンボンよ!永遠なれ!!

ホームページ http://www.groove.or.jp/movies/hansokuo/
韓国公式サイト http://www.foul.co.kr/


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コラムニスト 佐々木龍彦

映像作家。1967年兵庫県尼崎市生まれ。
高校在学中より8ミリの製作を始める。88年東京映像芸術学院在学中「七転八倒」(16ミリ短編)製作、ゲリラ的上映活動。新潟映画塾講師も務める。主な作品は「雲ゆきバス」「空から見えた月」(共に16ミリ短編)など。


連絡先:sasaki@asianpalam.com

反則王データ 2000 韓国/原題:
---- CAST
---- STAFF
監督・脚本 キム・ジウン
撮影監督 ホン・ギョンピョ
音楽 オオブ・プロジェクト
----
製作 映画社春
配給 シネマ・サービス
日本公開 グルーブ・コーポレーション
ラインナップ
第30回 少年、機関車に乗る
第29回 風の丘を越えて〜西便制〜
第28回 インファナルアフェア
第27回 ボイス
第26回 HERO
第25回 ほえる犬は噛まない
第24回 欲望の翼」つづき
第23回 猟奇的な彼女
第22回 欲望の翼
第21回 ディープ・ブルー・ナイト
第20回 藍色夏恋
第19回 われらの歪んだ英雄
第18回 夏至
第17回 接続 - ザ・コンタクト -
第16回 カップルズ
第15回 ディナーの後に
第14回 祝祭
第13回 豚が井戸に落ちた日
特別編 コラムニスト対談(韓国映画編)
第12回 魚と寝る女
第11回 ペパーミント・キャンディー
第10回 ラスト・プレゼント
第9回 グリーンフィッシュ
第8回 友へ チング
第7回 カル
第6回 反則王
第5回 美術館の隣の動物園
第4回 イル・マーレ
第3回 アタック・ザ・ガスステーション
第2回 八月のクリスマス
第1回 春の日は過ぎゆく


「反則王」ストーリー

冴えない生活にがんじがらめになっているイム・デホ(ソン・ガンホ)はダメ銀行員。契約は取れず、恋人もいない。果てはおやじ狩りにまで合う始末。いつも遅刻ばかりする彼は上司である副店長にいつもヘッドロックの奇襲攻撃を受けている。そんな彼がふとしたきっかけでプロレスジムを見つけ、勢い入門を申し込むが、あっさり断られてしまう。が、ジムの館長はジム経営のため依頼された八百長試合の反則レスラーがいないことからデホを養成することにする。かくして人生にヘッドロックをかけられた男の戦いが始まる。 『人生のヘッドロック』を解こうと悪戦苦闘する様をコミカルに描く、笑って泣ける傑作プロレス映画です。

ソン・ガンホ
1967年慶尚南道金海生まれ。「シュリ」のハン・ソッキュの友人(情報機関諜報員)、「JSA」の北朝鮮兵士などシリアスな役から「クワイエット・ファミリー」でのコミカルな役まで幅広くこなす、人気実力派俳優。その他の作品に「豚が井戸に落ちた日」「グリーンフィッシュ」「ナンバー・スリー」などがある。ちなみにビデオの日本語版吹き替えはプロレスラーの橋本真也。

ウルトラ・パワー・ボンボン
主人公のデホが憧れていたかつての反則レスラー、ウルトラ・タイガー・マスク(実はジムの館長)の必殺反則技。セリフでは「ウルトラ・タイガー・パワー・ボンボン」と言っていた。

韓国のプロレス
冒頭の映像はキム・イル(日本では大木金太郎の名で活躍)。この時代には韓国でもプロレスが人気で、キム・イル対アントニオ猪木戦は韓国でもよく行われた。その後あるレスラーが「プロレスはただのショーだ」、つまり本気の試合ではないと言ったことから韓国のプロレス熱は急激に冷めて、現在に至るようだ。主人公デホが最初に貧乏そうなジムの前を通りかかるシーンには木枯らしが吹き、哀愁漂う今の韓国プロレスを象徴しているようだ。

ソン・ガンホの父親
シン・グというベテラン俳優。「八月のクリスマス」でも、妻に先立たれ、息子(ハン・ソッキュ)も不治の病に冒された父親の寂しくも悲しい姿を演じている。

〜その他の注目俳優
チャン・ジニョン
館長の娘役。1974年生まれ。CMモデルとして人気になりテレビ・映画の世界へ。
パク・サンミョン
同じジムのレスラー。テ・ベクサン(反則用の偽フォークで食事をしようとした方の人)役。「ナンバー・スリー」チェットリ(灰皿)役ですでにソン・ガンホと共演済み。「リベラ・メ」の父親消防士役は泣かせる。
チョン・ウンイン
銀行で同じく成績の悪い同僚役。二枚目になったダチョウ倶楽部の上島竜平?ヤクザが高校生になるコメディ「頭師父一体」での主人公ヤクザの右腕役のコミカルな演技がいい。

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