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「ソウルの食べ方歩き方」路地裏安食堂探検ガイドへもどる

「ソウルの食べ方歩き方」の著者:中山茂大の未発表コラムをどうぞ。

「ソウルの食べ方歩き方」ボツ原稿復活シリーズ
第8回「へんな人その二

僕がそのおじさんを発見したとき、おじさんは立って身体を洗っていた。

おじさんはだいたい60歳くらい。猫背で膝を曲げて歩くので身体全体がS字型に見える。
どっちかというと神経質そうなかんじか。
とにかく、おじさんはそのとき手ぬぐいで背中を洗っていた。手ぬぐいを長くして両手で端をもって左右にしゃかしゃかと動かす。おじさんが手ぬぐいを動かすたびに四方八方に泡が飛んだ。しゃかしゃか。その音と一緒に、おじさんはなんとなく腰を振りながら身体を洗っていた。手ぬぐいが左右に動くたびにリズミカルに身体が動いて、僕にはそれが踊っているように見えた。

そうやっておじさんは丹念にくり返しくり返し身体中をくまなく洗った。
そしてシャワーで体中の泡を洗い流した。最後におじさんは自分のキンタマを左手のひらにひょいと載せて、じょわーっとシャワーをあてた。

僕が上がってしばらくするとおじさんも風呂からあがってきた。
長年の習慣のように、扇風機の真下の一番涼しいポジションを確保し、身体を丹念に拭いた。そして水を一杯のんで、もう一度全身をくまなく丹念に拭いてそのあと水を二杯飲んだ。そしてぺたぺたと歩いていって、ロッカーから意外と派手めなパンツをとり出してはいた。

そんなおじさんを見ているうちに、僕は昔東京のフィットネスクラブで見かけた、やはりへんなじいさんのことを思い出した。

サウナには僕のほかにふたりくらいいたと思う。てぬぐいをぶら下げて入ってきたのは60歳前後の痩せたじいさんだ。じいさんは僕たちの座っている前を通って一番奥にぺたぺたと歩いていった。
なにしろみんなくそ熱い中を我慢しているわけだから、よっぽどのことがない限り気に留めることもなかった。しかしじいさんが奥の方で座ったのを視界の片隅に認めたとき、僕たちはいっせいにじいさんをふりむいてしまった。

じいさんは壁を向いて正座したのだ。

そしてじいさんは正座したまま、仰向けにゆっくりと倒れはじめた。そしてそのまま仰向けに寝てしまったのだ。もちろん正座したままだ。
僕たちはあっけにとられてその姿を眺めていたが、じいさんはさらに奇怪なことを始めた。
じいさんは持っていたてぬぐいを丁寧に四つにたたんだ。そしてそれを自分の顔の上にのせた。そして胸の上に両手を組んで、そのまま動かなくなってしまったのだ。

僕とそのほかの人たちはおじいちゃんの一連の動きが完了したところで、見ず知らずにもかかわらず思わず顔を見合わせた。そしてなんともへんてこりんな格好をして動かなくなったじいさんをもう一度振り返った。

そして僕たちは誰彼ともなく静かにその場を離れた。そしてそろそろ疲れたのか、何か用事があったのかは忘れたけれども、僕がそれからサウナ室に戻ることはなかった。
したがってあのおじさんがいつまでそういう体勢でサウナ室にいたのかはわからない。

その後そのフィットネスクラブは不景気でなくなってしまい、いまは新築のマンションに変わってしまった。
あのじいさんがいつからそういう格好でサウナに入るようになったのか、どこでその技をあみ出したのか、そしてなんでそんな格好で入るのか、すべては謎のままだ。

文・中山茂大

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ラインナップ 第12回「失礼な連中
  第11回「一ヶ月の取材の間、新村の下宿にお世話になった。
  第10回「となりの松坂が日本に来ることになった。
  第9回「韓国下宿生活
  第8回「へんな人その二
  第7回「アカスリ体験記パート2
  第6回「こまネタ
  第5回「まったく人の話を聞かないおっさん
  第4回「大元旅館で泊まっていた変なアメリカ人。
  第3回「ドミトリーおなら考
  第2回「怒れるサラリーマン
  第1回「冬なのに蚊がいるソウルの宿
 
写真BAR白&黒コミュニティの出版物

「ソウルの食べ方歩き方」路地裏安食堂探検ガイド ソウルの
食べ方歩き方

文:中山茂大
写真:Ju Jun Yong
イラスト:水野あきら
山と渓谷社
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