 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |

「ソウルの食べ方歩き方」の著者:中山茂大の未発表コラムをどうぞ。


 |
第5回「まったく人の話を聞かないおっさん」
僕が宿で原稿を打っていると頭のはげを長い髪の毛で横に隠すような、要するに中曽根のような髪型をしたかなりダサイ感じのおじさんが入ってきた。田舎の農協あたり
にいるような五十がらみのおやじだ。
「あのーす、す、すいません。私ね、ひがし大門で、よ、よ、四十キロもね、革ジャンとか、く、靴とか、こ、こんなジャンパーとかね、買っちゃったもんでね、そ、そ、そこにほら、郵便局あるでしょ。に、に、荷物をね、送っちゃおうと思うんですけどね、どんなもんですかね」
僕はそういう事情はよくわからないのでそういうふうに言った。
「ああ、そうですか。……いや、あの、そ、そ、それからね……ところで、ここの宿いくらですかね」
大元旅館はドミトリーで一泊10000ウォンだ。
「あ、そりゃ高いね。うちの泊まってる宿ね、い、五日間先に払っちゃったんだけど、それで五万ウォン。それからね、うちの近くにね、YMCAの横に銀行があるんだけどね、そ、そこが一番レートがいいね。それから近くのね、ト、ト、トップトラベルっていうのがあるんだけどね、そ、そ、そこが一番。でもね、ひ、ひ、飛行機ならね、やっぱりバンコクが安いね。カオサンのねナントカトラベルっていうところがあって、そこなんか東京往復で、に、二万八千円だよ。私なんかね、イ、インドも、ミ、ミャンマーもバ、バ、バ、バングラディッシュもヨ、ヨ、ヨ、ヨ、ヨ、ヨーロッパももう、みんないっちゃってね、今度はキ、キ、キューバとかジャ、ジャ、ジャ、ジャマイカとかコ、コ、コ、コ、コ、コスタリカとか、い、い、行こうかと思ってるんですけど
ね」
なんだよ、荷物送る話なんじゃないのか? しかしおじさんは自分の旅の話に興奮してしまったらしく、しかも興奮するとどもる性質のようで、唾をまき散らしながら、どもりも一段と激しく自慢話を始めた。
「パ、パ、パリ行ってさ、パ、パ、パリもずいぶん回りましたよ。そっからア、ア、ア、アムステルダム行ってね、そのあと、ドゥ、ドゥ、ドゥッセルドルフ行ってさ。でもね今度ねブ、ブ、ブ、ブエノスアイレスにね、い、い、行くんですよ。それで……」
面倒くさいから半分流しながら聞いていると宿のほかの日本人がタバコを吸いにやってきた。するとおやじの注意はうまいことにそっちのほうに向いた。
「あ、あのね、私日本に荷物送りたいんですけどね、く、く、靴とか買っちゃったもんでね、よ、よ、四十キロも……」
僕はそれからしばらく原稿に集中していたが、ときおり耳に入るおやじのどもりがあまりにも面白いので途中でワープロに保存することにした。おやじの興奮した話はなおも続いた。
「いや、わ、わ、私なんかね、ヨ、ヨ、ヨ、ヨーロッパも行ったしイ、イ、インドも行ったし、ミ、ミ、ミャンマーも行ったし、バ、バ、バ、バ……」
なんだこのおやじは。結局日本人見つけて旅の自慢話をしたかったのか。僕は心の中で腹を抱えて笑った。ひまだから遊びに来たわけだ。要するに。でもこっちはひまじゃ
ないので、書き取るのもいいかげんにして僕は原稿に戻った。
それからしばらくおやじはその宿の日本人にも唾をはき散らしながら自慢話を続け、十分もしたところであきれたその人もどっかへ行ってしまった。おやじは所在なげに宿の中をうろうろした挙句また僕のところに戻ってきて、なんとまあ、こう言いやがったのだ。
「いやー、やっぱり旅の情報交換ができるっていいねえ」
お前のどこが情報交換なんだよ。
|
文・中山茂大
|
 |
 |
 |
 |
 |
 |
 |

|
 |

 |
 |

 |
 |
ソウルの
食べ方歩き方
文:中山茂大
写真:Ju Jun Yong
イラスト:水野あきら
山と渓谷社
1200円(税別) |
 |
 |
 |
 |
 |
 |

 |
 |
ロバと歩いた
南米・アンデス
紀行
中山茂大
(なかやましげお)
双葉社
1,600円(税別) |
「ソウルの食べ方歩き方」の著者・中山茂大の記念すべきデビュー作。ロバとともに南米大陸5700キロ徒歩の旅。強盗に襲われ、大雨にみまわれ、寒い日も暑い日も歩き続けた307日の記録。貧乏トラベルライター中山の原点がここにある。
 |
 |
 |
 |
 |
 |

 |
 |
ベトナム横丁
喧喧録
水野あきら
(みずのあきら)
文・イラスト
三修社
1,400円(税別) |
「ソウルの食べ方歩き方」の詳細なイラストマップでもその持ち味を充分に発揮してくれた水野あきらの代表作。この本ではイラスト同様味のある文章で我々をベトナムに誘う。人込みの中でしゃがみ、街の底から、底抜けの活気の正体を見つめたベトナムの絵解き見聞録。カラーイラスト多数。
 |
 |
 |
 |
 |
 |

 |
 |
四国霊場
徒歩遍路
小野庄一
(おのしょういち)
文・写真
中央公論新社
1,700円 |
弘法大師・空海の足跡を訪ねながら四国八十八ケ寺・1,400キロに及ぶ道程を48日かけて歩いた写真家が見たこと、感じたこと。スピリチュアルな写真と珍道中のエピソードで綴るフォト&エッセー。振り回され、助けられ、途方に暮れながら、少しづつ進んでいく等身大の徒歩遍路を読者も体験できるであろう。徒歩遍路必読ガイド&地図付き。
 |
 |
 |
 |
|